天体の距離(2016年12月)

2016年12月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

きょうは、いまはお昼過ぎなのですけれども、朝10時半から90分間、3年生の学生諸君に宇宙の講義をしておりました。私の講義のやり方は、同じ講義でも、おそらく毎年、中身が違うと思います。やはり話す時点で自分自身が面白いと思える話でないと、なかなか楽しく講義できない気がいたします。ですから、毎回、おおむね講義の日の朝、8時前後から「きょうはだいたいこのように話をしようか」ということを考え始め、90分間の構想を立てて、そして講義に臨みます。学生諸君の顔をみて、みんながいかに関心を持って私の話を聞いてくれているかということをリアルタイムに感じながら、お話をするようにしています。それがもちろん大事なことです。

そういう意味では、天文学の研究も時々刻々変わっていきます。教科書に書いてあって、すでに定説だと思われているようなことが、実は書き直す必要がある、書き換える必要があるということは、普段、数多くあります。最近の研究のなかで、宇宙に関して難しいことは、宇宙のいろいろな天体がどれぐらいの距離にあるのかという距離を決める問題です。これは非常に難しいのです。天体の距離は大変遠く、私達の日常生活のスケールに比べると、全然、桁が違います。このような天体の距離を正確に知るということを、実は私はこの数十年間、やり続けてきました。かなり多くの天体については、私の研究によって距離を書き換え、場合によっては1桁近く距離が違っていることを論文にして発表し、それがいまや定説になっているということがあります。一口に距離といいますと、何か地図を書き直すのかと思われるかもしれませんが、例えば距離が1桁変わるとエネルギーが2桁変わり、その天体の物理学、エネルギーのバランスを大きく書き換えなければいけません。

いまの人類の宇宙の理解は、そのような本当に数えきれない地道な努力の上に成り立っているということを、あらためてお伝えしたいと思います。決して、ダークマターだけが宇宙ではありません。

ありがとうございました。

【キーワード】 天体研究・観測