もし月がなくなったら?〜『宇宙 100の謎』から(2008年10月)

2008年10月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

実は、2年ほど前から「宇宙100の謎」と題したキャンペーンを行ってまいりました。いろいろな方々が持っている宇宙についての疑問、謎をどんどん応募していただき、そこから100の謎を精選して、それに対して専門家、あるいは研究者が回答していこうという試みです。ようやくその100問を選び、回答ができました。10月の半ばに(下旬になるかもしれませんが)『宇宙100の謎』という1冊の本が出版されます。出版元は東京新聞社です。書店にも並びますので、ぜひご一読いただければと思います。

きょうは、そのなかから一つ、私の心に残った謎をお伝えしておこうと思います。それは、「もし月が急になくなったら、地球にはいったい何が起きるのだろう」という謎です。このようなことは専門家はなかなか考えつきませんので、思考実験として大変面白いですよね。月という存在が地球、あるいは人間にとってどのようなものだったのかということを、あらためて考える機会になったように思います。

実際に月がなくなりますと、例えば「大災害が起きる」というお話をする方もいらっしゃるようですが、そのようなことはありません。月が地球に及ぼしている影響はそれほど大きなものではないのです。

一番顕著なのは、やはり潮の満ち引きです。ただし、潮の満ち引きには太陽も月とほぼ同じ力を及ぼしていますので、月が地球の周りを回る28日周期の潮の満ち引きはなくなりますが、地球が太陽の周りを公転している、その軌道運動に非常に大きな影響を与えることはないのです。

もう一つ、月には地球の自転のエネルギーを少しずつ与えていまして、そのために地球の自転スピードは少しずつ遅くなっているのですが、月がなくなるとそれがとまりますから、地球の自転スピードの減速がゆっくりになるということがいえます。

ただ、人間の文化、文明に対して月の果たしてきた意味は非常に大きいものがあると思います。例えば、いろいろな芸術、文学、そして私達の情操、気持ちですね、精神世界に月の光は非常に大きな影響を与え、それが『竹取物語』のような素晴らしい文学を生んできたわけです。

ですから、「もし月がなくなってしまったら、人間の精神世界に一つの大きな穴ができてしまう。そちらのほうが、むしろ人間にとって非常に大きな損失になるかもしれない」というような答えをいたしました。

今月のメッセージとさせていただきます。ありがとうございました。

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