トップ > 研究内容

研究概要

(左)NANTEN2によって得られた巨大星団Wd2に付随する2つの巨大分子雲[2]。背景はSpitzer衛星によって得られた波長8ミクロンの写真。円は巨大星団の位置を示す。(右) 位置-速度図[2]。速度は分子雲の視線方向の速度を示す。

現代の天文学は、宇宙と生命の起源を探ることをめざしています。 私たちの研究室は、電波によって星が生まれるプロセスを観測し、「星と銀河の起源」を解き明かそうとしています。星が生まれるもとは、分子ガスのかたまりです。 分子ガスは温度が低く、光では見えません。 かわりに、色々な分子が放つ電波をとらえることによって、ガスが集まり星が形成される様子を詳しく見ることができます。 太陽系もやはり分子ガスから生まれたと考えられます、46億年前におきた太陽系の形成を、私たちはさかのぼって見るわけにはいきません。しかし、現在も宇宙のあちらこちらで星は生まれています。 おうし座やカメレオン座の分子雲では、太陽とほぼ同じ重さの星が生まれています。また、さらに遠くの大マゼラン雲では太陽10万個分という巨大な星団が生まれているのです。 このような現在進行中の星形成を観測することによって、どのように星と惑星系が生まれるかを追求しているのです。
観測に用いる装置は、高精度の電波望遠鏡です。 私たちは、研究室で独自に開発した2台の電波望遠鏡を使っています。 これらの望遠鏡は口径4メートルと小型ですが、その広い視野と世界最高の感度とに特長があります。天文学の観測装置は,ふつうの光学望遠鏡はともかく、市販されていません。 自分たちの手で必要な観測器は作らなくてはならないのです。特に観測の成果を左右するのは受信器の感度です。 私たちは、超伝導を利用した受信器を大学内で開発し、多くの成果をあげています。 なかでも、「星のたまご」「星の赤ちゃん」と私たちが命名した「生後」100万年以内の若い天体を数多く発見したことで、名古屋大学の名前は世界的にも有名になっています。
「星のたまご」の分子ガスは自分自身の重力で凝縮します。しかし、回転による遠心力や磁場が収縮をさまたげます。 ここで「星の赤ちゃん」は、ガスを上下に吹き出して回転運動のもとになる角運動量を外に逃し、さらに収縮をつづけるのです。このようにして、星は生まれることが最近分かってきました。
さて、1995年からスタートした私たちの新しい観測計画は、未開拓の南天を調べようというものです。南十字星をふくむ南天は日本からは全く見えません。 北天に比べて南天の研究は遅れています。 そのために望遠鏡の1台を南米チリのラスカンパナス天文台(標高2400m)に移設し、すでに多くの観測成果が得られています。チリの北部は、アンデス山脈のすそのでたいへん乾燥しており、空気も澄んでいます。年間の晴天率が80%をこえるという天文観測にとって理想的な場所です。これまでに欧米各国が光の望遠鏡を建設してきましたが、分子の電波を観測する装置はほとんどありませんでした。 名大の施設は、日本が海外に設置した初めての本格的な天文台としても注目されています。この望遠鏡には、一般公募で「なんてん」と名前がつけられました。
「なんてん」望遠鏡は、おおかみ座、南十字座、カメレオン座などの南の天の川の分子ガスの様子を次々と明らかにしています。 また、16万光年かなたの大小マゼラン雲の観測にも威力を発揮しており、球状星団の起源につながる巨大星団の形成の場をとらえています。 大学院生は交代でチリに行き、一回に3ケ月位滞在して各自の観測を行ないます。このようにして常時2、3人の大学院生が滞在しています。 さらに2004年度中には、この望遠鏡を標高4800mのアタカマ高地に移設予定で、世界で最も観測条件の良い場所でのサブミリ波による観測研究が始まろうとしています。 頭上には毎夜南十字星と天の川が見事に輝く素晴らしい場所で、星と銀河の起源に迫る研究をつづけているのです。
修士および博士課程では「なんてん」電波望遠鏡で観測したデータを中心に、研究結果を修士論文、博士論文にまとめており、ここ数年は毎年2-3編の修士論文と1-2編の博士論文が提出されていま。論文のテーマは,我々に近い分子雲形成領域である高銀緯分子雲から、小質量星、大質量星形成領域、マゼラン雲における巨大星団の形成の起源までと、非常に多岐にわたっています。
昨年の博士論文としては、「銀河系におけるスーパーシェルに付随する分子雲の観測的研究(松永健一、2002)」と 「超新星残骸とスーパーシェルに付随する分子雲の観測的研究(森口義明、2002)」があげられます。前者は、南の天の川で発見した「カリーナフレア」を初めとする10個弱の分子雲スーパーシェルの観測データをもとに、スーパーシェルが分子雲に与える影響を調べ、後者は、Vela超新星残骸とM16、M17スーパーシェルの詳細な観測から、それらが分子雲に与える影響を議論したものです。また、修士論文では、銀河系中心領域の広域観測、銀河面第3象限方向の分子雲の観測、銀河系外縁部Warp領域の詳細観測などがあります。