小林・益川両先生のノーベル賞受賞によせて(2008年11月)

2008年11月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。ご無沙汰いたしました。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

まず最初のご報告ですが、前回も予告いたしました、『宇宙100の謎』という本がようやく出ました。ぜひ本屋さんで手にとって一度みていただければと思います。一般の方から寄せられた100個の謎それぞれにイラストが付いて、私も含めて名古屋大学の4人の教員が答えを書いております。いろいろ奇想天外な謎もありましたけれども、やり終わってみると大変深い作業だったという気がいたします。ぜひお読みいただければと思いますので、まずご報告をしておきます。

さて最近、名古屋大学の、特に物理関係の研究者にとって大変大きな出来事がありました。小林、益川両先生がノーベル賞を受賞されたのですね。私自身も長年、受賞していただきたいなと思っていろいろやっていた関係もありまして、大変喜んでおります。

ただ、一般のジャーナリズムのノーベル賞受賞報道を聞いておりますと、少し違うのではないかと思われることがあります。それは何かというと、あのような研究成果が生まれる場合の時間的な、あるいは歴史的な背景についてです。一つの研究成果は、決して突然わいてくるものではありません。その前には10年、あるいは30年に及ぶ研究の前史があります。小林、益川両先生の場合にも、坂田先生という素粒子論の研究室を作られた、偉大な先生がいらっしゃいました。

また、名古屋は東京や大阪、あるいは世界から少し離れた位置にある、隔絶された場所であったということも、そのような特異な、特殊な伝統を育むのに非常に都合がよかったのではないかと、私にはみえます。やはり独創性の高い研究成果を生み出すためには、当然、長年にわたる粘り強い努力が必要ですが、同時に、いかに独創性の高い目を育てていくかという環境も大切なのです。世界の大きな流れとはまったく違うところに研究の一つの方向を見出し、それを独自に追及したことが、小林、益川両先生の成果につながっています。

名古屋大学では、素粒子論だけではなく、化学、あるいは生物学においても大変似たような方向の特色ある成果が、ここ数十年、出されております。これを機会に、ぜひそのような基礎研究の長いタイムスパンにも思いを馳せていただければ有難いと思う次第です。

今月もどうもありがとうございました。

【キーワード】 研究・観測著書