新しい発見への理解(2010年8月)

2010年8月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

先月、2~3週間ですが、イギリスに出張しておりまして、特に後半の2週間は、オックスフォードに滞在しておりました。そこで、ヨーロッパの人達も含めて世界の大学院生達を相手にした宇宙のサマースクールと、1週間の国際会議、学会を主催して話をしたり、あるいはチェアマンをやったりという2週間を過ごしてまいりました。そのために今月のメッセージをお伝えするのが少し遅くなってしまいましたけれども、お許しください。

その会議のなかで私は短いトークを、遠慮して15分ぐらいの短い持ち時間でしたけれども、一つだけしてきました。ただ、私の考え方としては、話の長さとインパクトにはそれほど相関がないのです。むしろ、10分前後あれば非常に強いインパクトのある話を皆さんにお伝えできると私は確信しています。

オックスフォードでお話ししたのは、2006年に発見した銀河の中心部の磁場の問題についてですが、皆さんからいろいろと質問が出て、あるいは反響もあって、私達の新しい考え方が世界の皆さんに相当伝わってきたなと強く感じました。

振り返りますと、いまから4年前の2006年の5月頃、ヨーロッパの学会でその話を初めてしたときには、100人あまりの人達がいましたけれども、理解されたのはそのうち20~30名ぐらいではなかったかと思います。非常に新しいアイデアを発表しましたので、半分以上の方々はかなり戸惑って、本当にそんなことがあるのだろうかという半信半疑の気持ちで聞いていたのではないかと思います。

この発見のポイントは、太陽の表面のフレア、あるいはプロミネンスというループ状の現象がありますけれども、これが1兆倍のスケールで、銀河系の中心で起きているということです。そのようなループを電波の観測でみつけました。

その後、2006年から約1年経って、2007年にチリのサンティアゴのヨーロッパ南天天文台でヨーロッパの人達、あるいはチリの人達を相手に、基本的には同じ話をしたのですが、このときの反応は実に冷たかったのですね。専門家なのですが、そのような現象に対してほとんど聞く用意のない人達が聞いていらっしゃいました。おそらく、なかなか共感できずに、あるいは理解できずに、非常に妙な話を聞かされたという反応でした。

それからさらに2、3年経ちまして、去年の暮れからことしに入ってくると、どこでお話ししても大変強い反響が感じられるようになってきました。また、9月にはスイスの学会で招待講演としてその話をすることになっています。

このような学問の流れを振り返ってみると、やはり新しい発見というものは、直ちに受け入れられるものではないのです。当初はかなり根強い反発、あるいは無理解に出会うことが、ままある気がいたします。ただ、私はこのようにいっていますけれども、過去に私自身が無理解であったと反省することが2つか3つ、あります。確かに人間は非常に新しいアイデアに接すると、ついつい古い考え方にこだわることがあるのですが、それでは進みません。それを超えていくところに、研究の非常にダイナミックな醍醐味があるということを、つくづく感じております。

一つ大事なことは、そのような新しい知見、発見をいかに研究費に結びつけていくかということです。得てして審査をされる方は、よく確立した、業績の上がった、やや年配の方であることが多いのですが、実はこのような方々が新しい考え方に抵抗され、結果的に足を引っ張るということが、歴史的にいろいろあるようです。注意して考え続けなくてはいけないと思います。

ありがとうございました。

【キーワード】 意見・エピソード研究・観測