惑わされない精神(2010年3月)

2010年3月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

ここ2、3週間は国際会議のシーズンです。ほとんど連日のように、3つばかりのテーマの違う国際会議に出て、いろいろな方のお話を聞き、またいろいろとお話をしております。そのなかで、いつも感じることではあるのですが、人間がどのように物事を考えていくかというところに非常に大きな問題があるという感じがしております。

人間同士が非常に仲良く、共通の話題を持ってお話しすることは、それ自体は良いことなのですけれども、ともすれば多数の人が共通の誤ったパラダイムに気がつかないまま取り込まれていくことがあるのではないかという気がします。どの人と話してみても、例えば「AはBである」という考え方が伝わってくる人が10人、あるいは20人いると、あたかもそれが正しいことであるかのように、多くの人達は錯覚してしまい、考えてしまいます。

それを突き破っていくのは、そのような多数のパラダイムに影響を受けずに自分の頭で物事を考え、それを実験なり実証によって確認していくスピリットを持った、ごく少数の人達です。そのような人達が誤ったパラダイムを突き崩し、本当の真実に肉薄していくことを可能にします。しかし、そのような研究者は、実は研究者の世界にはあまり多くないといわざるを得ません。だからこそ、学問研究はそれほどドラマティックに進展しないのではないかという気がいたします。

ただ、日本にもそのような素晴らしい力を持った数少ない研究者は、天文学の分野にもいらっしゃいますし、またいらっしゃいました。そのお一人が京都大学名誉教授の林忠四郎先生ではないかと考えております。林先生は一見、本当につまらないと思われる数式の世界を非常に丹念に自分の頭で追究されて、多くの弟子を育てられ、そして多くの真実を明らかにされた素晴らしい理論家でいらっしゃいました。

つい数日前、林先生がお亡くなりになったというお話が伝わってまいりました。心から哀悼の意を表したいと思います。

ありがとうございました。

【キーワード】 意見・エピソード研究・観測