原子力発電所事故の問題を考える(2011年5月)

2011年5月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

日本列島は依然として震災の非常に強い影響を受け、いろいろな事態が非常に深刻な形で推移しています。あらためて被災された方々に深く労りの気持ちをお伝えしたいと思います。

一方で、国全体がこれからに向けて、いろいろな工夫をしていかなくてはいけないという事態を、全国民が迎えているのではないかと考えています。

私は天文学を専門としておりますので、例えば原子炉関係の委員会、あるいは地震関係の委員会には全くお声のかからない立場に立っているのですが、先日、キャンパスで、ある工学部の先生とお会いしまして立ち話になったのですが、「非常に深刻な影響を受けている」「また反省もしている」ということをおっしゃっていました。特に工学関係の先生方は、関係するいろいろな委員会に委員として出席されることも少なくないと思います。原子力発電所に対するいろいろな基準等について、いろいろなご意見をおっしゃったとは思いますが、結果的には是認することになってしまったということに関して、大変、胸の痛みを伴っていらっしゃるのではないかともお見受けいたしました。

私がその先生に一つお伺いしましたのは、「政府を含めて、特に震災直後の措置は適切だったのか」ということです。そうすると、その先生がおっしゃるには、「実は誰がやっても大差はないのです」というお話でした。確かに担当する企業、東京電力は替わらないわけです。政府は替わるとはいえ、同じような人達が担当することになりますから、五十歩百歩といいますか、誰がやっても非常に大変な大災害であったということは間違いないのであろうという気がいたします。

一方、私どもは先週から2年生向けに「ビッグバンから現代社会まで」というタイトルで新学期の講義を行っております。1回目は広く社会情勢に目を向けるという意味で、震災の問題を取り上げて、学生諸君の意見を聞きました。いくつかの観点で議論をしたのですが、そのなかで一つ印象に残っていることは、マスコミ等では「現政府の対応は非常によろしくない」という厳しい意見が割と支配的なのですが、その2年生の学生諸君の大勢は「現政府をそれほど責めなくてもいいのではないか」という意見が多かったことです。そのギャップはどこに由来するのか、私もまだ十分に考えておりませんが、名古屋という土地が被災地からある程度の距離があるということが背景にあるのかもしれません。この点については、これからよく考えを巡らせてみたいという気がいたします。

引き続き、私の天文学の研究室の人達、主に大学院生諸君と、それから事務でサポートをしてくださっている方々にお集まりいただいて、今回の震災、また原子力発電所の事故についてどのようなお考えや、あるいは疑問を持っていらっしゃるのかということを伺う時間を、小一時間ほどですが、作ってみました。そうしますと、事務の担当の方からは「報道や政府関係の発表は本当に真実なのか。何か大事なことが隠されているのではないか」という疑問の声が比較的強く聞かれました。説明が国民各位に十分伝わっていないと印象付けられた結果でした。

そのやりとりのなかで私が気がついたことを一つお伝えしたいと思います。やはり原子力発電所に関係する事柄は、現象として大変複雑で難しいのです。何が危険で、何が起きたのか、あるいは何が起こりそうなのかということに関して正確に理解するためには、かなり高度な専門知識が必要で、特に物理学に基本を置く理解が不可欠です。ところが、それは普通の方にはなかなか要求できないものです。

また、ジャーナリズムの方々が一生懸命、取材をしていらっしゃるわけですが、バックグラウンドとしては文系の方がかなり多く、何をどこまで理解できるのかという意味では大変に問題があります。ですから、国民に何がどこまで危険で、何は安心してよいのかを伝えることは、特にこの原子力に絡む問題では非常に難しいのです。それを痛感いたしました。

私は年に何回か、「名古屋大学星の会」という場で、一般の方々に向けて、これまで基本的には宇宙のお話を中心にしてまいりました。「福井教室」と申しておりますけれども、次の講演は今週、5月7日の土曜日の午後2時から2時間ほど行います。また、「星の会」の講演会は5月15日の土曜日の午後1時半すぎから予定しております。ともに名古屋大学で行います。私のホームページにも詳細が記載されておりますので、ぜひご覧ください。

そして、そのような場を利用して、大変微力ではありますが、今回の事態に関して一人でも多くの方々の疑問にお答えし、私に可能な範囲で、どのように対処すべきなのか、どこが安心でどこが危ないのかという情報をお伝えしていきたいと考えております。大変ささやかな試みではございますけれども、ぜひ力を合わせて、みんなで頭を使い、知恵を出していきたいものだと考えております。

ありがとうございました。

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