観測衛星「プランク」が切り開く新しい宇宙(2011年2月)

2011年2月度のビデオメッセージ

それでは、今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

いつもしかめっ面をしてお話ししているような気がいたしますが、たまにはにこやかにメッセージをお伝えできればと思いますので、きょうはそんな気分でお話をしようと思います。

この間、1月の半ばですが、パリに行きまして、1週間ほど国際会議に出ていました。

いま「プランク」という名前の付いた観測衛星が宇宙をみています。プランク(Max Karl Ernst Ludwig Planck)は大変高名なドイツの物理学者で、特に放射、光がどのような性質を持つのかという「プランクの放射公式」をみつけて提示した、大変素晴らしい研究者です。この「プランク」が何をしているのかといいますと、137億光年かなたの、宇宙が始まって間もない頃の放射、いわゆる「宇宙背景放射」を観測しています。以前、「WMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)」という観測衛星がありましたけれども、それよりも一桁高い角度分解能で、波長1cmから1mmぐらいの電波を観測しています。すでに最初の1年の観測は終わりまして、どんどん成果が出ています。

その「プランク」の最新の結果を議論する会議で、世界から200名ぐらいの方々が集まっていました。日本は直接、深くコミットしているわけではないので、日本からの参加者はそれほど多くはありませんでしたが、大変面白い話をいろいろ聴くことができ、非常に勉強になりました。

実は、私は20年ほど前に赤外線を研究しているフランスのグループと共同研究を始めまして、フランスの人達と営々と研究を続けています。最初の論文は15、16年前に出ましたが、これはおうし座で彼らが観測した赤外線と私達が観測した分子ガスという冷たい雲がどのような関係になっているのかということを調べた、ほとんど最初の研究論文です。それを皮切りに、本当に気持ちもよく合いまして、パリだけではなく世界の各地で、いろいろな研究会で議論し、また共同研究を進めてきた仲間です。中心人物はブーランジェ(Francois Boulanger)さんです。「ブーランジェ」というお名前は、実は「パン屋さん」のことですから、日本でいえば「パン屋の次郎」という感じなのですけれども、そのブーランジェさんといろいろな議論をしてきました。

この「プランク」衛星は新たにいろいろなことを切りひらいてくれています。宇宙背景放射の研究といいますと、宇宙論の研究者にしか縁がないと思われがちですが、決してそんなことはないということが、最近、非常にはっきりしてきました。これは「プランク」衛星でもその通りなのです。

宇宙背景放射は、ずっと遠くをみるわけですが、その手前には私達の銀河系のいろいろな星間物質が存在しており、これがまた同じ波長帯で放射を出していまして、そのような放射の一部は、実は私達が観測している分子雲が出しています。ですので、手前の成分を完全に理解できなければ、137億光年かなたの宇宙背景放射の完全な理解もないというのが、いまの私達の共通認識になっています。現在、「プランク」の観測結果を使って、これまでになかった世界最高の星間物質の研究を行い、それによって宇宙の起源にさらに深く迫っていけるという考え方で研究をしています。

「プランク」の観測結果は本当に素晴らしいものです。非常に精度が高く、角度分解能も高く、しかもその結果は全天にわたってどんどん出てきています。これから非常にワクワクする研究を行っていけるだろうという新しい期待を持って、最初のひと月、1月を過ごすことができました。

本当に一つ一つの観測衛星には人類の巨大な資源が投入されているわけですけれども、その1個1個が記す学問的な足跡は実に巨大なものです。この5年だけでも、我々はこんなにも宇宙の新しい顔、姿を知ることができたのかと振り返ることができます。いまさらながら、研究者の端くれの1人として感激を禁じ得ない、そのような幸せな日々を送らせていただいております。ことしもまた、さらに大きな、いろいろな発見に恵まれれば幸せであると思いつつ、パリから帰ってまいりました。

ありがとうございました。

【キーワード】 研究・観測