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星間雲同士の衝突によってトリガーされた大質量星形成

研究の背景・目的

分子雲同士の衝突による大質量星形成
大質量星は、星風と紫外線、さらに終末期の超新星爆発によって周囲の星間媒質に強い影響を与え、銀河における星間空間の物理に大きく寄与するため、大質量星の形成機構を解明することは、銀河進化の理解のために必要不可欠な課題である。これまで、O型星などの大質量星は主に星団として巨大分子雲において形成されると考えられ、小質量星と同様の降着円盤による質量降着シナリオと、星同士の衝突合体シナリオが議論されてきた[1]。しかし、我々の最近の研究から、分子雲同士の衝突にトリガーされた大質量星の形成が、非常に重要な役割を果たすことが明らかになった。これは大質量星形成の研究において新たな局面を切り開くものである。
我々が発見した星間分子雲衝突による大質量星形成は、Westerlund2、NGC3603、三裂星雲M20の3例である。前二者はO型星10個以上を含む巨大星団であり、M20は中心のO型星が光度の大部分を占める、いわゆる「孤立したO型星」と似た性質を持つ。これらは1 pc程度の狭い領域に、若い大質量星を形成している点で共通している。我々はこれら3つの領域で、星団/O型星に付随する2つの分子雲を検出し、それらが共通して10 ? 20 km/sの大きな速度分散を持つことを明らかにした。この大きな速度分散は系の重力では束縛することができない。そこで、2つの分子雲が過去に衝突し、分子雲が狭い空間に強く圧縮されることで、通常の自発的収縮では形成できない大質量星が形成されたとするシナリオがもっとも自然な解釈として考えられる。
これまでに発見された分子雲同士の衝突による大質量星形成
以下に我々が発見した三例についての詳細を述べる。

Westerlund2
Wetserlund2(以後Wd2)は、わずか半径1 pcの空間に合計1万太陽質量の星が集中するミニ球状星団とも呼ぶべき巨大星団である。我々はNANTEN2望遠鏡を用いたCO分子の回転遷移輝線J=1-0, 2-1の観測によって、このWd2方向に分布する2個の分子雲を発見した。
2個の分子雲は15 km/s以上の大きな速度分散を持つため、これら2つ共が星団に物理的に付随しているか否かが焦点であった。そこで我々は、2個の分子雲が周囲のHII領域と形態的に良く対応することを示し[2]、さらに分子雲の励起度の指標であるCO J=2-1/1-0輝線強度比が星団方向で有意に高く、LVG解析から両分子雲の温度が星団方向で上昇していることを確かめた[3]。両分子雲は共に巨大分子雲であり、全質量は20万太陽質量に達する。しかし、15 km/sの速度分散を半径10 ? 20 pcの距離に重力的に束縛するには50 ? 100万太陽質量が必要である。そこで我々はこの2つ分子雲が相対速度15 km/s以上で衝突し、それにより巨大星団の形成がトリガーされたと結論した。

(左)NANTEN2によって得られた巨大星団Wd2に付随する2つの巨大分子雲[2]。背景はSpitzer衛星によって得られた波長8ミクロンの写真。円は巨大星団の位置を示す。(右) 位置-速度図[2]。速度は分子雲の視線方向の速度を示す。
NGC3603
NGC3603は、合計1万太陽質量の星が半径1 pc以内に集中するWd2に並ぶ巨大星団である。年齢は約2 Myrと若く、赤外線星雲(HII領域)を伴う。我々はNANTEN2のCO J=1-0, 2-1観測から、大きな速度分散(約20 km/s)を持つ2つの分子雲が星団方向に存在することを発見した。両分子雲で12CO J=2-1/J=1-0強度比が星団方向で顕著に高いため、これらは星団に付随すると考えて良い。しかし、分子雲の全質量10万太陽質量では、この速度差を重力的に束縛することはできず、Wd2と同様の分子雲衝突による星団形成がここでも起きていると考えられる。

巨大星団NGC3603に付随する2つの巨大分子雲。視線速度10 km/sを持つブルーシフト成分を白の等高線で、30 km/sを持つレッドシフト成分を黒の等高線で示した。背景は可視光の写真。また、左上の写真はハッブル衛星によって得られた中心の巨大星団の様子(NASA/ESA)。
M20(三裂星雲)
M20(三裂星雲)は500太陽質量程度の散開星団として知られているが、その光度の大部分は中心のO7.5型星(約20太陽質量)によって占められている点で特徴的な天体である[4]。年齢は数10万年と極端に若い。この方向には3個の分子雲があるが(1個は巨大分子雲、2個は1000太陽質量の小質量分子雲)、我々はNANTEN/NANTEN2の CO J=2-1, 1-0観測によって、2個の小質量分子雲がM20に付随し、巨大分子雲は直接の付随関係にないことを示した[4]。付随する分子雲の総質量2500太陽質量では、分子雲の速度分散8 km/sを重力的に束縛できず、分子雲同士の衝突がO型星形成を誘起した可能性が高い。これまで、大質量星の形成には数十万太陽質量の巨大分子雲が必要と思われてきたが、ここでは数千太陽質量の分子雲がO型星を形成しており、その星形成効率の高さ(約20%)は特筆に値する。

Mopra 22m望遠鏡によって12CO J=1-0で観測されたM20に付随する2つの分子雲。中央の十字はO型星の位置を示す。ブルーシフト成分が暗黒星雲と良く一致する一方、レッドシフト成分は一致が見られない。これは前者が星雲のM20の手前に位置し、後者が内部か奥に位置することを示す。このことはこの2つの成分が過去に衝突し、現在は遠ざかる運動をしていることと一致する。
このような分子雲衝突による星形成機構は、球状星団の形成にも応用できる可能性を持つ。触角銀河では銀河同士の衝突が大規模な星形成を誘発したと考えられており、これが原始銀河での球状星団の形成をもたらしたとするアイデアもある[5]。その意味で、分子雲衝突が若い宇宙での銀河進化に決定的な影響を与えた可能性も考えられる。
分子雲衝突による星形成の先行研究として、古くは[6]、最近では[7]がある。しかし、彼らの観測研究で検出された衝突分子雲候補の速度分散は数km/sであり、衝突という解釈はユニークではない。自発的収縮による説明が十分可能である。付随する分子雲の大速度分散を検出した点において、我々の研究とは本質的に異なる。
本研究では、以上の3例の発見と、最近の関連する研究発展を土台として、約50個の巨大星団および孤立したO型星に対して広域詳細観測を行い、物理状態の定量も含めた衝突分子雲の系統的な調査を実施する。加えて、理論との比較、高分解能観測への展開を図り、分子雲衝突による大質量星の形成機構の解明を目指す。


研究計画

我々のこれまでの結果を踏まえ、分子雲衝突による大質量形成の場として考えられるのが、Wd2、NGC3603に代表される巨大星団と、M20に近い性質を持つと思われる孤立したO型星である。巨大星団は、銀河系に5例しか知られてなかったが(銀河系中心部30 pc内に位置する3星団と、円盤部のWd1&2)、最近NGC3603を含む7個の星団が同様の巨大星団として新たにリストアップされた[8]。
孤立したO型星は、銀河全体のO型星のうち約20%がこれに対応する。起源として連星系からの放出等が検討されてきたが[9]、未解明である。これらが本当に孤立しているのか、小規模だが星をともなうM20的な星団であるかは検証を要するが、M20と同様に分子雲衝突により形成された可能性は十分考えられる。このような孤立したO型星は例えば[10]に約50個リストアップされている。
巨大星団のうち3個が銀河系中心部30 pcに分布していることは興味深い。また、孤立したO型星、ウォルフ・ライエ星も30個近く同領域に集中していることも分かった [11]。銀河系中心部は分子雲密度が極端に高く、非常に大きな速度分散(約30 km/s)を持つため、分子雲同士の衝突頻度も高いと考えられる。したがって、この領域での巨大星団と孤立したO型星の集中も、分子雲衝突による星形成で簡潔に理解することが可能である。
これまで衝突によってトリガーされた大質量星形成は我々の3例しか報告されておらず、どれも若い天体に限られている。大質量星からの紫外線と星風による母体分子雲の散逸は非常に速く、数100万年程度で分子雲は急速に散逸してしまう。実際、Wd1は、Wd2をしのぐ巨大星団であるが、年齢がやや古く、星団の周囲にはHII領域も赤外線星雲もない。NANTEN2の観測から、ここでは3個の巨大分子雲が20 km/s程度の速度分散を持って分布し、星団近傍の10 pcに分子雲はないことが分かった。これは、散逸によって分子雲の空洞ができていると考えて矛盾がない。逆にM20のように極端に若い星団では、衝突分子雲がほぼそのままの形で残っている[4]。このような分子雲衝突による大質量星形成の進化シナリオを、観測を通して系統的に検証することが本研究の目標である。そのためには多数のサンプル(巨大星団と孤立したO型星)に対して、その周辺数10 pcを一様に観測することで、散逸状態にあるものも含めて衝突分子雲を捉えることが必要であり、またそれらの分子雲に対して衝突や中心星からの紫外線の与える影響を明らかにするために、温度、密度、速度等の物理状態を定量することが重要である。

NANTEN2を用いたCO J=3-2詳細高感度観測
これまでWd2等の観測は、主にNANTEN2に搭載したCO J=1-0, 2-1輝線を用いて行ってきた。しかし、この2つの輝線は励起温度が約5 ? 15 Kと低く、衝突や紫外線によって加熱された分子雲の高温領域に対して感度が悪い。また、角度分解能は100 ? 160秒角(地球からの距離5 kpcで空間分解能2.5 ? 4.0 pc相当)と、星団のサイズに対して有意に大きい。これは特にM20のような孤立したO型星における衝突分子雲の観測で問題となる[4]。
そこで本研究ではNANTEN2に搭載する345 GHz帯受信機を新たに開発し、CO J=3-2輝線による衝突分子雲の詳細観測を実施する。CO J=3-2の励起温度は約30Kと高く、分子雲の高温領域を選択的に抽出できる。また、50秒角と高い角度分解能によって可視光・赤外線星雲データとの直接比較が可能となり、分子雲の付随状況を詳細に調査できる。

Mopraによる90-115 GHz帯の詳細観測
必要に応じてオーストラリアのMopra 22m望遠鏡を用いた90 ? 115 GHz帯の観測を行う。CO J=1-0輝線観測は、計画1)のCO J=3-2結果と比較することで分子雲の温度・密度の定量を可能とする。また、90 GHz帯に存在する分子輝線(HCN, HCO+, H13CO+など)は、105個/cc以上の高密度ガスに感度を持つため、衝撃波で圧縮された分子雲の詳細な構造を調べることが可能となる。また、この帯域には衝撃波トレーサーであるSiO輝線もあり、これを用いた衝撃波領域の抽出もあわせて実施する。

ALMAを用いた超高分解能観測
ALMA(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)はNANTEN2と同じ南米チリの標高約5,000 mに建設された巨大な電波干渉計である。本年度より初期科学運用を開始した。このALMAを用いることで大小マゼラン雲を含む局部銀河群においてpcスケールの空間分解能を実現することができる。これは銀河系内におけるNANTEN2の空間分解能とほぼ等しい数字である。我々が銀河系内天体の観測から得た知見を、等しい空間スケールで銀河系外の巨大星団に対して適用する。局所銀河群における巨大星団は、[8]で約30個がリストアップされている。銀河系内での巨大星団は依然として少数に限られるため、観測を銀河系外にまで適用することは分子雲衝突にトリガーされた大質量星形成領域のサンプル数を増やす点で大きな意味を持つ。

理論との比較
以上を通して得られた結果を、理論の数値計算と綿密に比較することは重要である。M20ではO型星の形成以前から領域全体で分子雲がクランプ状に進化していたことが報告されており[12]、周囲の分子雲は衝突分子雲の衝突以前の状態を保存している可能性が高い。そこで計画1)?3)において検出されるであろう、大質量星に直接付随しない分子雲に対しても物理量の導出を行い、この初期条件を調査する。これに加え、衝突分子雲に対する観測から系統的に明らかにされる星形成過程の各段階における温度・密度等の情報を、分子雲と衝撃波の相互作用を描く数値計算に与えることで、分子雲衝突による星形成機構の具体的な物理過程を明らかにすることができる。

参考文献

[1] Zinnecker & York 2007, Annual Review of Astronomy & Astrophysics, 45, 481
[2] Furukawa et al. 2009, ApJ, 696, 115
[3] Ohama et al. 2010, ApJ, 709, 975
[4] Torii et al. 2011, ApJ, 738, 46
[5] Wilson et al. 2000, ApJ, 542, 120
[6] Loren 1976, ApJ, 209, 466
[7] Higuchi et al. 2010, ApJ, 719, 1813
[8] Portegies Zwart et al. 2010, ARAA, 48, 431
[9] 例えばPflamm-Altenburg & Kroupa 2010, MNRAS, 404, 1564
[10] de Wit et al. 2004, A&A, 425, 937
[11] Mauerhan et al. 2010, ApJ 725, 188
[12] Lefloch et al. 2008, A&A, 489, 157





星間物質の精査によるガンマ線超新星残骸の探求

研究の背景・目的

宇宙線とは
2012年は、宇宙線が発見されてからちょうど100年に当たります。宇宙線というのは、宇宙空間を飛び交う高エネルギー の放射線で、地球にも常に飛来しています。主な成分は陽子で、他に微量の電子や原子核が含まれています。陽子と、それ以外の比はだいたい100対1ぐらいです。
宇宙線が宇宙からやって来ることを発見したのは、ビクター・ヘス (Victor Hess)という人です。当時、正体不明の放射線は地面から出ているのだと考えられていました。それならば、気球に乗って空へ上がれば弱くなるはずだと考えたのですが、実験してみるとむしろ高いところへ行くほど強いという結果になり、宇宙からやってくる宇宙線であることが明らかになったのです。
このように発見された宇宙線が、宇宙のどこで高いエネルギーまで加速されているか、実はまだよくわかっていません。宇宙線の粒子は電荷を持っている(プラスまたはマイナスの電気を帯びている)ので、宇宙空間にある磁場によって進行方向を変えられてしまいます。地球に届いた時にどの方向から飛んできたかを調べても、どこから来たのかは全くわからないのです。ただし、宇宙線の粒子を高いエネルギーまで加速できるような場所は宇宙でも限られています。ペタ電子ボルト (1015 eV)までの宇宙線は銀河系内の超新星残骸で加速されている、という説が有力です。

ガンマ線超新星残骸

ガンマ線は、X線よりもさらに波長の短い電磁波です。最近5年ぐらいの間にガンマ線天文学が急速に進展し、Fermi、AGILEなどの人工衛星や、HESS、MAGIC、VERITASなどの地上望遠鏡によって、ガンマ線で見た宇宙の姿が次第に明らかになっています。
この絵は、TeV (テラ電子ボルト)ガンマ線望遠鏡HESS で見た、超新星残骸RXJ1713.7-3946です。このようにガンマ線で輝いている超新星残骸(ガンマ線超新星残骸)が、これまでに20個以上見つかっています。

ガンマ線発生の仕組みは、高エネルギー陽子によるもの(陽子起源、陽子-陽子反応)と、高エネルギー電子によるもの(電子起源)の、大きく分けて2種類のモデルが考えられています。ガンマ線超新星残骸が陽子-陽子反応によって輝いていることを立証できれば、「宇宙線は宇宙のどこで加速されているか」という長年の謎の解明が大きく前進します。

星間物質とガンマ線の比較

陽子-陽子反応では、高エネルギー陽子が星間物質(水素原子ガスまたは水素分子雲)の陽子と衝突してガンマ線が発生します。標的となる星間物質の分布とガンマ線の分布が好く対応するはずです。一方、電子起源の場合は、水素原子ガスや分子雲とは関係ありません。ガンマ線が陽子起源なのか電子起源なのかを調べるには、星間物質とガンマ線の分布を比較すればよいことがわかります。
私たちはまず、超新星残骸RXJ1713.7-3946について、星間物質の分布を詳しく調べ、ガンマ線の分布と比較しました。水素原子ガスは波長21 cmの電波輝線を使って、分子雲は微量に含まれる一酸化炭素から出る波長2.6 mmまたは1.3 mmの電波輝線を使って観測することができます。分子雲の観測には、なんてん・NANTEN2電波望遠鏡を使いました。
このように並べると、ガンマ線の分布(左)と星間物質陽子の分布(右)が、よく似ていることがわかります。